★恋人が増殖する恋人

窓をあけたら、ひょっこりと顔を彼は出した。
堪らないひょっこりだったので、わーっと笑って、それから彼に今日の予定を訊いた。
すると私は今日、私が「やりたい」と思うことのすべてを彼にひとっとびでかなえてもらえるのだと喜ぶ。
と同時に、今日で終焉を迎える、とも思う。
それが悲しいのかなんなのかはよくわからない。
ただ、彼は私の手を見たことの無い仰々しさで引き、ここです、と席を提示し、私の腕を彼の腰に持っていく。

と、思ったけれども私は、彼の背中にとりあえず額を預ける。
風とともに、なんかこう、きれてはいけない部分まで切れてしまっているような気持ちになる。
気づいた時には、彼は溶けてなくなっていて、若干私に癒着している。
ひとつになりたい
と、思ったことがあったかなかったか、違和感と不快感がつきまとう。
どうしてとつぶやく。
後ろから、彼がひょっこり顔を出す。
仮にそれが同一人物であれ、そうでないであれ、もう私にはどうでもよいことだ。
私は彼にごめんなさいと言う。
彼はどうしてとつぶやく。
どうしても。
そう。
こうしてまた静かな終焉を迎える。
私に残っていた彼の癒着していたそれは、ぼたぼたっと床に滴っていた。