★K・H・小鳥・庭にて

夢はいつでも不条理ですよねー





起きるのには、力がいる。
起きたくないよー。鳥がピヨピヨいってる。
「こう」うごいたら「こう」なって「こう」いう感じになっていくことを私は知ってる。
それが大好きということだ。
「おいで」
「たばこ」
「ベッド」


何回くらいちゅーしたら「満足」するかな?って訊かれたら、どうしよう。


ベッドの脇にあったタバコの箱を右手で握って、アンダーで投げた。
それは窓を通過して鳥に当たったので、鳥はピヨピヨ言うのをやめた。
「たばこ、値上がりするのに?」
「うん」
「うん」
Kのふとももにキックをいれた。
いつの間にかKはズボンをはいていたけど、でも痛そうにした。
どうして私は、こんなことをしてしまうのかな?って訊かれたら、それは…
Kがいいからか、Kをいいと思い込む…Kを、私の中になじませるためだ。
ふにゃふにゃになったり、すごく大変そうになる様は、だれかれかまわず見せる姿ではないだろう。
すなわち、まだ私は、Kとの距離に関してのいろいろを量りかねている。


(特にセックスをした日の午後は、変な吐き気とかに狂わされる。気分の問題なのだろうか?いつかのむかし。もう1年前…朝。仕事をして、少したってトイレに行くと、ぱたぱたと多分もう機能しない精子が水没していった…セックスのその瞬間は、この時に起こる心の変化のことなんか、考える余裕は一切ない。こういうことは、Kとは関係あるようでないかもしれない。でも、Kも私の知らないところで、私の知らない女の人の中に、生命機能付きの、ぶわって、1度くらいはぶちまけているんだと思う。思うと笑える。)


Kは私を起こして、ワンピースを着せた。
灰色に、水色とピンクの水玉模様のワンピースだった。
私は、スカートの広がりを意識した上で、1回転した。
Kは、携帯で適当に写メを撮った。
私は、その携帯を、いつか反対に閉じて(すなわち、折って)みたいと思った。
「こっちはね」(ベランダだよ)
私の手を、初めてつないでくれた。うれしい
ベランダは、小さな庭みたいだった。
アップライトピアノと、金魚と、小さいパンダみたいな小動物、足下は芝生
明るい光
私はかつて弾けた曲を思い出しながら、一生懸命Kに聴いてもらう。でも、うまく弾けない。
Kは、私のへったくそなピアノにあきて、鍵盤に両手をかざして、ふわふわさせる。
テルミンの演奏みたいにみえる。でももちろん音は出ない。
その代わりに、鍵盤がバラバラに消えてしまった。

と、いった私を見て、Kはにこっと笑う。
金魚にえさをやる。その金魚を、パンダみたいな小動物が食む。
「ええー!」
「ふふ」
「じゃくにくきょうしょくやー!」
「ふふふ」
「きゃーーーーーー」
Kは私に覆いかぶさる。芝生の上に倒れ込む。(たくさんキスをする)

何回くらいちゅーしたら「満足」するかな?って訊かれたら、どうしよう。

唇を重ねたまま叫んだ。
「カンチュゲーザーァー!ラーィナァアァーウ」
「なになになに、急だな、急、急に、急、どうした」
「オーバミー」
私は芝生から立ち上がって踊る。「へい」という。「へい」
「よくわからない子だ」とKは言っている。
「へい。K」
「なに」
「ちゅーは?」
「しない」
金魚はすっかりいなくなっていた。
私はその、Kに着せられたワンピースで、大学の先輩の結婚式に行った。
おとなしくしていた。
帰りには、先輩に挨拶をする。
「せんぱ…」
顔がまるで別人だった。
なんていうか、おじさんになりすぎていた。
しわとか、肌の質感が、私の知ってる先輩ではなかった。
先輩は悲しそうに笑っていた。左手をあげる。
その手もしわしわだった。(Sさんじゃない…これはSさんじゃない…)
とても悲しくて、帰り道は涙を流す。
なんとなく顔を上げるとKがいた。
Kはなにも言わない。少し笑う。
一緒に帰る。
今は手をつながない。どうしてかな?
でも私は、Kが今、ここに、いてくれただけでうれしいと思った。
「うーん」
目覚ましのアラームがすごいうるさい。アラートだ。エマージェンシーだ。
スヌーズは切っとけよばか
「ケータイ2つ折りにするぞー」
「いやあああ」
ベランダはせまい。
干しっぱなしのタオルが墜落している。
私の腕は、真上に、宙をふらふら切ったのち、いつも体温を求めてへばりつく場所は背中だ。
鳥はもう、朝の鳴きを終え、各々の行動へ移ってしまっていた。
私たちも、各々の行動に移ろう。

何回ちゅーしたら「満足」するかな?と訊かれたら、多分、その口をちゅーでふさいで、知らんぷりすべきなんだな、と思った。
Kはとなりで、とても眠そうにしていておもしろい。


(2010,6,10 朝)