単細胞思惑か東京12ヶ月



全員、笑っている。
アルコールを手に、歓談をしている。口角が1年間分ほどあがりっぱなしになっている。
どこかに沈んでしまいたい。
「長谷部君、飲んでる?」「あ、はーい」
「つまんなそうな顔してたよ」「まずいすよね…」
「大丈夫でしょ。でもあれだ、つらいんだ」「え?」
「彼女に会ってないのが」「ですねー」


 なんでわかったんですか、原さん? 
 それは僕が、長谷部君を好きだからだよ。


原さんは、なんなのか分からん表情をしていて(淡々とした)いらっとしたので、その顔面に手のひらを押し付けた。
それから眼前のぬるいビールを飲みきった。


「仕事」の人たちが、楽しそうにしている。
俺はこの場に於いては、ほんの少ししか関係がない、と思っている。
(映画の衣装をやったのだった。そのなにか「会」なのだった。原さんは大勢いる中で唯一仲良しの音楽家なのだった。)


「わー、長谷部君の愛」「ちゃうわー」
「彼女元気なの?」「元気と思います」
「浮気しないの?」「しませんよ」
「どっちが?」「え?」
「長谷部君?」「俺はどうやろ、しないですよ、今んとこ」
「さみしいなら、無理しないでいいんじゃない」
「なんすかーそれー、たぶらかすのやめて下さいよ。原さんこそ、なんかやってんすか」
「こっちはもうこだわり無いしね、かわいいなーって思った女の子とその都度、後腐れなく」
「うわー」「好きなんだもん、みんな」
悪気も、偽りもないよ、なんて
浮気っていうかなあ、浮くってさ。だってみんな好きなんだもん。
みんなちがって、みんな好き


俺は手のひらを見た。そういうこと、もしひなたに言ったって、どうなるんやろう。


でも、なんていうか俺は、なんでも真に受けるから、その日の晩は、久しぶりにしらへん女の子とセックスした。