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単細胞思惑か東京12ヶ月
あたしが心のどこかで期待しているのは
「ひなた、なんでこっちじゃないの、どうしてあんなちゃらちゃらしたののとこにいんの、ねえどうして?俺好きだよ、ひなたいなきゃ困るよ、どうしよう、いかないでよ」
みたいなことかもしれない。
あたしが必要とされているってことが、なのか
あたしのことを好きってことが、なのか
とおるさんなんかおいて、こっちに来てくれと懇願されることなのか
どこの点に良さを感じているのかはわからない。
ひろいは何も言わず、とおるさんにはすこしバカにさえされる小さい胸に唇を寄せる。
小さいなりに、ひろいの上唇(あたしからは、上唇しか見えない)と一緒に波打つ胸と、まあその、ひろいの唇と
あと、伏せられた睫毛とを見るのがかなり好きだ。
このとき、いつも枯渇している女性ホルモンみたいなものが生み出されていってるような感じがし、
ひろい自体はあたしから、満たされていない母性愛みたいなものを吸い出していってるような感じがする。
性の欲求とかを、すっかりどこかにおとすとか、こわしてしまったみたいだった。
「きもちい?」
「うん」
その言葉だけが異物のように、空気中になじめずぼんやりかすんだ。
それきり、言葉は出なかった。
あたしもひろいにおりかさなるようにして、目を閉じた。