★千鳥ちゃん

千鳥ちゃんは、常にテーブルに突っ伏している。大体、表情は分からない、いつも。
「千鳥ちゃん。食べなくていいの?」
いいかどうかは、こちらが勝手に思う“千鳥ちゃんの空気”をつかみ取って、判断する。
こちらが勝手に思う千鳥ちゃんの空気
なんだから。


久しぶりに、千鳥ちゃんは体を起こしている。
僕は正直なところ、初めてだった。千鳥ちゃんが、男の子だってことも
前髪は実は目の上できちんと切り揃えられていることも
目が大きいことも
案外いい感じってことも
僕は、初めて知ったのだった。すごくはずかしくなった。


千鳥ちゃんはテーブルから離れ、窓際へと歩き、外を見ている。
僕は、千鳥ちゃんが一体僕をどう思っているのかを急速に知りたくなった。
毎日、規則正しく千鳥ちゃんのもとに来ている僕を
でも、方法を知らない。
僕は、千鳥ちゃんの空気ですら、勝手に思うことしかできないのに


「ねえ、…」と、千鳥ちゃんが言った。
たしかに、目線がばっちりあっちゃってる。
「どうしよ、なにも話すことなんてないんだ、けど、ね」
きっと、千鳥ちゃんも僕も、同じ気持ちなんじゃないか、と僕はまた

勝手に千鳥ちゃんの空気を思う。